10%近くの「無国籍者」がいる

 次の2つのグラフをご覧あれ。ラトヴィアの中央統計局(CSB)公式統計の「Population by ethnicity at the beginning of year 1935–2025」からとった2025年初頭のデータです


          


 左のグラフの「民族」は、この統計局のデータの説明によると、「個人の・・・情報は『自然人登録簿(Register of Natural Persons)』で確認でき、 その登録は、個人識別書類、民事登録証明書、または裁判所の判決文書に記載された情報に基づいて行われます。これらの文書のいずれにも民族に関する情報がない場合、 その人の民族は、直系尊属の民族に基づいて本人が選択したものとして登録されます。子どもの出生を記録する際には、 子どもの民族は、父、母、または祖父母の民族(2世代以内の直系尊属)に基づいて登録することができます。両親が異なる民族であり、子どもの民族について合意できない場合、 その子の民族は記録されず、『未選択(unselected)』として登録されます。」とのことですが、ロシア人が23.4%とラトビア常住人口の4分の1を占めていることです。この統計の地域別、都市別の総人口に占めるロシア人の割合を示すものを見ると、一番ロシアに近いラトガレ地域で35.2%と平均より多く、その中心都市のダウガフビルスでは46.7%、レゼクネで43.4%と多く、またリガでも34.4%となっています。これらの人々にはソ連時代にロシアの地域から移住してきた人たちとその子孫が多いと考えられます。実際、私がダウガフピルスで泊ったホテルのスタッフたちは英語を使ってくれましたが、フロントでの彼女たちの雑談を聞いていると、「ボリショイ」などの単語が聞き取れたのでロシア語話者だと思いました。
 
 次に、右のグラフから驚くのが、ラトヴィア在住者の9%近くが「非市民」すなわち無国籍だということではないでしょうか? これは、ラトビア独立回復時に、ソ連への併合(1940年)以前の国民と、その直系子孫にのみ自動的にラトビア国籍の旅券が付与されたこと、そして、それ以外の人々には、「非国籍旅券」というものが与えられている「非国籍者」「非市民」となったためなのです。この2025年当初のデータには、地域別の総人口に対する「非国籍者」の割合は、リガ・周辺地域で12.4%、ラトガレ地域7.7%、ゼムガレ地域7.4%、クルゼメ地域6.0%、ヴィドゼメ地域3.3.%というものもあり、リガ地域と、ロシアに接近しているラトガレ地域に多いことがわかります。
 その後、独立後に生まれた非国籍者の子供に優先的に国籍が与えられたり、それ以外の人には、5年以上のラトビア合法居住、ラトビア語の試験合格などの能力公的証明、ラトビア憲法・文化などの知識、ラトビアへの忠誠などの条件を満たすと国籍を与えるなどの措置もとられましたが、まだ先ほど示したように在住者の9%が「無国籍者」で、その多くはロシア人だと言われています。
 私は、ダウガフピルスのホテルでタクシーをチャーターし、アグロナ大聖堂やラトガレ地方のいくつかの湖を回ってもらいましたが、そのタクシードライバーがロシア語話者で、「無国籍者」でした。人懐こい感じの人で、初めおぼつかない英語で話しかけてきたので、思い切って、持って行ったVascoという翻訳機の音声・文字変換機能を使って、「会話」しました。彼は丁寧に応えてくれました。翻訳機の性能上、違っているところがあるかもしれませんが、以下、その内容を示します。青い文字の日本語が彼の話したロシア語を翻訳した部分。白い文字の日本語は私が話した部分です。

      
左がロシア人ドライバー。一番右は「53年前にラトビアで生まれ」の誤訳だと思われる。

      

右は会話の中で、「日本人はチャイコフスキーなどの音楽、トルストイやツルゲーネフなどの文学を愛好している。」と言った私の話への彼の対応


 彼の年齢が53歳だとしてと、ご両親がラトヴィアに来た年を考えると、彼には国籍が与えられていいように思いますが、そのへんのことはプライバシーに関するので突っ込んで聞きませんでした。この他にも、「以前はロシアやベラルーシに自由に行けたのに、今は行けなくなった。」とも言っていました。ロシアのウクライナ侵攻のため、厳しい出入国措置がとられるようになったのでしょう。
 最後に、一番訊きたかったウクライナ侵攻への考えを質問しましたが、慎重な曖昧な回答でした。私はこれ以上質問するのがためらわれたので、ここで終わりにしました。「ハチ公の映画を見て感動した。日本にはその銅像があるそうだね。」という話もしてくれて、日本に対しては好感を持ってくれているようでした。私の回りたかった所は、かなりマイナーな、彼も行ったことの無い所もあったのですが、嫌な顔一つせずに、私の要望に沿って、湖の回りの撮影場所を、途中から小雨が振ってきた中、自身が濡れるのも厭わず少し歩いて一緒に探してくれました。彼には感謝しています。
 ウクライナのことを考えると、ラトビアがロシア人に厳しい政策を実行するのはわかる気もしますが、彼のような一般の、ロシア国外のロシア人に罪は無いと思うし、万一ロシアがウクライナを支配するようなことがあれば、次はラトビアのこのロシア人の権利抑制を、攻め込む口実にするのではないか、と心配です。

  


 このような民族構成を背景に、ウクライナ侵攻以前に、EUからも在ラトビアロシア人の人権状況が批判されたこともあり、公的な場所ではラトビア語とともに英語とロシア語での説明が一緒になされています。下は、リガの野外民族博物館の展示の説明パネルの一つです。



①サイト: https://stat.gov.lv/en/statistics-themes/population/population/press-releases/22900-number-population-latvia-2024 より
②サイト: https://stat.gov.lv/en/statistics-themes/population/population/tables/ire071-population-ethnicity-regions-citiesより
➂サイト: https://data.stat.gov.lv/pxweb/en/OSP_PUB/START__POP__IR__IRE/IRE031?s=ethnic%20municip&より


  


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