私のルーブル ベスト5
パリのルーブル美術館は、その広さ、展示物の多さがすさまじい。何回か行き、そのうちある1日は18時までの開館時間をフルに使って鑑賞したが、「ほんの一部を見たにすぎない。」とつくづく思わざるを得なかった。時間が限られてくると、「せめて有名なものだけでも見よう。」となり、鑑賞したものは本当に限られたものとなる。
そんな限界の中で、勝手にあえて私の好きな5点を紹介しよう。絵画の好みは人それぞれだ、ということでお話しさせてもらいたい。

下の、レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナリザ」、ミロのヴィーナス、という「ルーブルの両横綱」や、さらにサモトラケのニケ、ミケランジェロの「瀕死の奴隷」、書記座像、ラファエロの「美しき女庭師」、レンブラントの「バテシバ」、フェルメールの「レースを編む少女」、アングルの「グランド・オダリスク」、ダヴィッドの「皇帝ナポレオン1世と皇后ジョゼフィーヌの戴冠式」も有名で、それぞれいいけれど、私のベストは別である。




私のルーブルお気に入り第5位は、フランスのプッサン(1594-1665)の「アルカディアの牧人たち」である。全体の安定した、静かな雰囲気が良く、特に右の女性が一人の男性牧人の肩に手を掛け、何かを諭しているような趣が好きなのである。この絵の解釈として一般的なのは、ここは、ギリシャに実際にある「アルカディア」という地で、伝説上の「理想郷」となった所。男たちが墓石に刻まれた、ラテン語“Et in Arcadia ego”を手で追っているのを、右の、神とも解釈される女性が「理想郷アルカディアにも私(死)はいる」と解釈するのだ、と諭し、慰めている、というものである。



私の第4位は、フランスのジョルジュ・ドゥ・ラ・トゥール(1593-1652)の「大工聖ヨセフ」。イエスの「義父」で大工のヨセフが梁に穴を開けているのを蝋燭を持った幼子イエスが照らしている、というもの。穴を開けている梁は、イエスが将来掛けられる十字架を示している、という。蝋燭の炎に照らし出されている幼児イエスの純粋さ、可愛さが印象的。灯りがイエスの手指を透かしている技法も素晴らしい。


私の第3位は、フランスのコロー(1796-1875)の「モルトフォンテーヌの思い出」。モルトフォンテーヌとは、パリから北へ約30km行ったところに実在する場所で、現在も近くにいくつかの沼がある。朝もやに包まれた静寂な景色、湖面の明るさと大木が作るうす暗さとの対比の中で、3人の娘たち(1人は母だとも言われる)が湖畔の木に何かをしようとしているこの感じがたいへん好きである。ルーブルに行くと必ず見に行きたくなる絵である。


第2位は、もともと私の第1位だったもの。ドラクロワ(1798-1863)の「民衆を率いる自由(の女神)」。ドラクロワ自身も傍観者として目撃したという、1830年7月27~29日のフランス七月革命で、民衆が自由を求めて戦った姿を描いたもの。ナポレオン失脚後のウィーン体制で復活した復古王政が、革命で否定したはずの旧勢力の資産の回復を図り、反対派の言論や抗議行動を取り締まろうとしたことに対して、民衆がパリ市街地にバリケードを築くなどして国王軍と戦い、結局国王を亡命に追い込み、立憲共和政を打ち立てた、という事件である。女神は「自由」のシンボル、共和政フランスのシンボルとして、民衆が武器をもって自由のために戦ったことを示している絵だとのこと。「自由」と進歩を愛し、自らの努力によって「自由」を勝ち取り守るべきだという考えの私は、この絵のテーマに共鳴するし、たくましい女神の姿にも、民衆の姿にも、ただただ痺れるばかり。


輝く、私の「ザ・ベスト・オフ・ルーブル」は、イタリアのジュゼッペ・アルチンボルド(1527-1593)の「連作 四季」の4枚。

4枚のうち右下が「春」、左下が「夏」、右上が「秋」、左上が「冬」である。それぞれ人物を横向きの姿で描いているように見えるが、よく見ると、それぞれ花、野菜、果物、老木を集めて人の顔にしていることがわかる。このウィットと、それぞれの寄せ集め構成のみごとさに感動した。前々から強く印象に残っていたものだが、ドラクロワの「女神」はずっと好きで少し感動がマンネリになったこともあって、直近のルーブル訪問で、この『四季』が、私の「ベスト」となった。
「春」は様々な花の寄せ集めで、青年を現わしている。


夏は、野菜を集めて、働き盛りの人の姿を現している。襟に「ジュゼッペ・アルチンボルド」という作者の名前が、下の袖の部分に「1573」というこの絵の制作された年が描かれている。


「秋」は、果物の寄せ集めで、円熟期の人物を描いている。

「冬」は、老木を人の顔に見立て、沈着な老年の表情を示している。襟にあたる部分に、二本の剣の紋章が描き込まれており、これは、この絵の贈呈先の、ザクセン選帝侯アウグストのものだという。この4枚の絵は、アルチンボルドの仕えていた、ハプスブルグ家のマキシミリアン2世の命で、アウグストに贈られたものだそうである。4枚の絵は、様々な表情をもつ民衆を示し、それは様々な人々からなる国家を意味し、また四季は繰り返すので、いつまでも国家統治がつづくように、という思いを込めた作品だという(ルーブルのオーディオガイドの説明より)。
